佐賀さんと僕4 2005-01-17
ぶふっ!
むせかえって飲みかけのお茶を噴出してしまった。
「彼氏ですか? 彼氏ができたんですか?」
「そう。」
と、休憩室で僕の問いにあっさり答えたのは我が社の関取、いや違う横綱、間違い親方、じゃなくて女性事務員の佐賀さんだ。
「そんなに驚くこともないじゃない。」
ちょっと憤慨気味に佐賀さんが僕をたしなめる。でも、「驚くな」という方が無理ってなもので、だって佐賀さんが彼氏をつくっただなんて言ったなら、そりゃあ誰だって驚くに決まってる。
「あの、その彼氏というのはどういう感じなんですか?」
「どういう感じって?」
「えっと、その、普通の人間なんですか?」
「サラリーマンでいわゆる普通の人だと思うけど。なんかナカムラ君の質問の仕方、気のせいかおかしくない?」
気のせい気のせい! 佐賀さんに彼氏ができたってのに比べればどこもおかしいところなんてない。
ごまかすために別の話を振ってみる。
「決まり手は・・・・・」
「は? なに?」
「あ、違う、ほら、決め手。二人のなれそめとか、付き合う決め手になったのはなんだったんですか?」
「なんとなくかな。友達同士での付き合いは古い人なの。」
「でも、なんかあるでしょう。」
「まあ強いて言うなら、こう、彼ってリーダーシップっていうか人を引っ張るタイプなの。そういう人が結構あたし好きなのよねぇ。」
なるほど「引っ張る」タイプか。いかにも「突っ張る」タイプっぽい佐賀さんとはお似合いかもしれないでゴワス。
なんて考えながら僕がうむうむと一人うなずいていると、つんつんと僕の肩を佐賀さんがつつきながらニヤッと笑って言った。
「ねえ、ナカムラ君。ひょっとしてあたしに彼氏ができてショックだった?」
ショック?
ああ、なるほど確かにショックかもしれない。
コーラのビンや飛行機を初めて見たブッシュマンもきっと僕と同じだったに違いない。これがカルチャーショックというやつか?
「ふふーん。いまさらショックを受けたってもう手遅れなんだからね。」
なんだか勝ち誇った感じで佐賀さんが僕にそう言った。
確かに佐賀さんの言うとおり。きっと手遅れに違いない。
もはやこれは土俵際、落ちたら負けだし落ちなきゃ佐賀さんと同じ土俵の上。そんな彼氏さんのこと手遅れと表現するだなんて。
「なんだ、佐賀さんよくわかってるじゃないですか。」
「え、なにが?」
「あ、いえ、別に。」