佐賀さんと僕2
訪問のアポを取っていたお客が都合が悪くなり、午後からの仕事がおじゃん。
みんな出払ってしまった事務所の自分の席で独りポカーンとして過ごす。そんな僕へ誰かが声をかけた。
「あれ、ナカムラ君、なにやってんの?」
お、親方? いや失礼。声をかけてきたのは大相撲の親方ではなく我社の女性事務員でパートのおばちゃんたちの首領、佐賀さんだった。
「なにしてんの、サボり?」
「違いますよ、お客さんの都合で時間が空いちゃっただけですよ。」
「ふーん。」
「ま、ちょっと苦手なお客さんなんでホッとしてたりするんですけどね。」
「へー、ナカムラ君にも苦手な人っているんだねー。」
「そりゃあいますよ。」
「いつもヘラヘラ笑ってるからそういうのないって思ってた。」
し、失礼な。
僕がいつもヘラヘラ笑っているのは臆病な自分をごまかすためで、さほど親しくない人や苦手な人の前では内心ビクビクしているのだ。
もちろん、佐賀さんも苦手な相手の一人なのでこうやって普通に話をしているフリをしながらも心の中ではいやーな汗をかいているのだ。
「僕、こう見えてもけっこう人見知りするんですよ。」
「へーそうなんだ。」
佐賀さんはとバンバンと楽しそうに僕の背中を叩いて言った
「人見知りかぁ、あたしと一緒だね。・・・・・・・・・どうしたの変な顔して?」
僕が変な顔をしたのは別に佐賀さんが嘘を言ってると思ったのではない。僕の知らない間に世の中では‘人見知り’という単語の意味が変わってしまったのか不安になったのだ。(あと、もちろん親方の突き押し、いや佐賀さんに叩かれた背中が異様に痛かったのもある。)
「はあ、人見知りするんですか、佐賀さん。」
「ま、あたしはこう見えても箱入り娘だからね。・・・・・・・なんで変な顔してるの?」
僕が変な顔をしたのはもちろん佐賀さんが嘘を言ってるなんて疑いを持ったわけではなく、僕の知らない間に世の中では‘箱入り娘’という単語の意味が変わってしまったのかと不安になったのだ。
「きっとすごく大きな箱だったんですねぇ。」
「は、なにが?」
「いえ、別に。」