「は」の字だったら死んでいた
飲み会でみんなと別れて帰り道、盛り場を抜けようと一人歩いていると僕と同じようにほろ酔い加減の学生らしい男が反対側からやってきた。すれ違うときにうっかりその男と肩がぶつかってしまった。
「いてっ!」
「あ、わりい。」
と、反射的に僕は謝ったのだけどそのあと
「気をつけろよなっ!」
と言われてなんか無性に腹が立った。別に僕が一方的に悪いというわけじゃないはずだ。それでついつい言い返してしまった。
「そんなのお互い様だろ!」
そしたら相手の学生らしい男はツカツカと僕の方へ寄ってきて僕の肩をドンッと押して
「うるせえ!」
と怒鳴ってきた。こうなると僕としても収まらない。押されて少しよろめいたもののすぐにバランスを取り直した。僕はふらついた上半身を起こしざまにその反動を利用して相手の腹めがけて蹴りを出した。これが上手い具合にヤツのミゾオチにドスッと入り、その学生らしい男は苦しさのあまり体を「く」の字に折ってうめき声を上げた。
「ざまあみろ。」
僕はそう言い捨ててその場を立ち去ろうとした。すると僕が去ろうとした瞬間に男がガバッと立ち上がり僕のミゾオチに突きを入れた。見事なボディブローを喰らった僕はその場でうずくまった。
「ざまあみろ。」
学生らしい男はそう僕に言い捨てて行ってしまった。僕は苦しさのあまり体を「ぬ」の字に折ってうめき声を上げた。複雑骨折だった。
僕はもう、自力で立ち上がることもできず雑踏の中に取り残された。
そんなこんなで季節外れの風邪をひいたようです。