かおなし=Faceless

日常だったり雑談だったり妄想だったり

ドラマ的情景

 待ち合わせのため僕は喫茶店で一人、ぼんやりと窓の外を眺めていた。待ち人はなかなか現れず取り残されたような気分でぬるくなっていくコーヒーと曇り空の下の風景を窓越しにかわるがわる眺めていた。
 狭い喫茶店の中には店員のほかは僕と一組のカップルらしき男女がいるだけだ。店内には有線放送の音楽がかかっていたが音量は小さくすごく静かだった。
 すごく静かだった。ふと僕はその静けさが気になった。なぜこんなに静かなんだろう。静かなことがいけないというわけではない。静かであるということに違和感を感じているのだ。その違和感の元は僕の斜め向かいの席に向かい合って座っているカップルだ。いや、本当はカップルじゃないのかもしれない。その男女はさっきから一言も会話をしていないのだ。みたところ二人とも20代後半であるようだ。二人とも雑誌を読むわけでもなくときおりコーヒーを少し飲むだけでただ向かい合って座っているだけだ。
 この二人はどういう関係なんだろう。パッと見た感じは夫婦というわけではなくやはり恋人同士というのが一番合いそうな気がした。友達というにはなんていうか友達同士独特の気軽さがないような気がしたし、仕事で会っているならその仕事の話をせっせとしそうなものだ。でも恋人同士にしてはあんまりにも沈黙が長い。
 僕は退屈しのぎにこの二人の関係を勝手に想像してみた。おそらく二人は恋人同士だがすれ違い気味で上手くいっていない、お互い気持ちは確かなんだがそれを確かめることが出来ない、それぞれの生活がかみ合わず二人には新しい変化が必要な時期になってきているのだがそのことをふたりとも切り出せないでいる。こんな感じかな?まるでドラマみたいだ、といっても僕の勝手な創造の産物でしかないのだけれど。

 「話があるんだろ?」

 男のほうが不意に口を開いた。僕は「お?」と思い、よくないことだけど無関心を装いながら聞き耳を立てた。二人は見つめあいしばらくして男のほうが視線をはずしたが、すぐにまた視線を元に戻した。しばらくして今度は女のほうがうつむくように下を向いて視線をはずした。

 「あのね・・・・・。」

 女はうつむいたまま少し小さめの声で話した。男は視線をそらさず女のほうをじっと見つめた。

 「あたしね、」

 女は話しながらゆっくり顔を持ち上げた。

 「・・・・・今年の秋に、結婚するの。」

 男は身動きひとつするでもなくその言葉を受け止めた。
 ややや、いったいこの二人の間にはどんなドラマがあったのだろう?僕の勝手な想像なんかをはるかに超える時間を過ごしてきたのだろうか。二人はどんな時間をどんな想いで過ごしてきたのかどんな出来事があっていまここに二人でいるのか。その結果が今の女の言葉にどうしてつながってきたんだろう。そしてこの言葉に男はなんて答えるのだろう?

 

 

 僕のぐるぐると勝手に回る想像をよそに、男は数秒の間を置いて落ち着いた声で女に一言だけ返事をした。

 「・・・・・また?」

 ええ!?二人の間にはどんなドラマが?