かおなし=Faceless

日常だったり雑談だったり妄想だったり

僕の恐い話 2005-07-06

 石川君からずいぶんと久しぶりに電話がありました。
 電話の用件がなんだったかというと「なんか怪談を教えろ。」というものでした。なんで突然怪談なのかというと飲み会の余興で怪談をやるそうです。

 『というわけでだ。さあ、観念して教えろ。』

 「うーん。怪談ねえ・・・・・。じゃあ九州のとあるトンネルの話なんてどうだろう?」

 『うむ、なんでもよいぞ。洗いざらい話すがよい。』

 

~ その九州のトンネルというのが、正確に九州のどこにあるのかは僕も知らない。学生の時、九州出身の同級生に聞いた話なんだ。
 そのトンネルはそれ程大きなトンネルではないものの長さはちょっとある。だいたい横幅は乗用車2台がギリギリすれ違うことが出来る程度で、長さは700m程らしい。両側の出口付近は少しカーブになっていている。今ではそのトンネルはほとんど使われていない。もともと整備が遅れていた県道ですぐ近くにもっと広い県道のトンネルが出来たのでお役御免になったんだ。
 そのトンネルにはもちろん照明がついてるんだけど、そりゃあ古い照明なんでちょっと困ったことがある。昼間用の照明と夜間用の照明がタイマーで切換わるようになってるんだけど、これが少し狂っていて夕方、昼間用から夜間用に照明が切換わるときに時間のズレがあって5分くらい真っ暗になっちゃうんだ。さっきも言ったように両側の出口がカーブになっているから外から光も届かない真っ暗な区間がちょうど500mくらい出来る。
 地元の人はそれを知っているからその時間帯にはそのトンネルには近づかないし、地元以外の人は新しいトンネルの方を使うから別段たいした問題なんてなかったから、そのトンネルの照明についてはずっと放置されていた。
 ところがまあ、たまたまその時間帯、何の因果かそこへ迷い込んだ車がいた。特別な理由もなく、ただ純粋に偶然迷い込んだだけの乗用車には男が一人だけ乗っていた。車がトンネルへ入ったとたん真っ暗になったものだから男もさすがに驚いたものの、ライトをつけ、そのままトンネルの奥へちょっとゆっくり目のスピードで進んでいった。
 で、トンネルの奥はまだ夕方だっていうのにものすごく真っ暗、なんでだかライトで照らしてもぼんやりしてる。男もなんかちょっと変だななんて考えた。そしたら変なものに気がついた。真っ暗で、自分の車しか居ないはずのトンネルの中、小さな小さな子供の声が聞こえてくる。何かの聞き違いかと思ってカーステレオの音を消してみるとやっぱり小さな子供の声が、それも一人二人じゃなくて、何人もの、何十人もの子供の声。男は恐る恐る窓の外を見てみたけど何にも見えやしない。だけど車を取り囲むように聞こえてくる子供たちの声。笑い声、泣き声、悲鳴、悲鳴、悲鳴。
 男は恐くなってスピードを上げてトンネルから勢いよく飛び出した。
 トンネルが見えなくなるまで走ってから男は車を止め、恐怖でぜえぜえと乱れた息を整えようと、深呼吸をしようと車から降りた。そしてふと車を見ると、車のボディ、窓のちょっとしたの高さまで真っ赤な手形、小さな子供の真っ赤な手形がびっしりと付いていた。車のボディ一面にちょうど小さな子供の手が届くくらいの高さまで赤い赤い血のような手形がぺたぺたと付いていた。
 実はそのトンネル、ずっと昔の冬、まだトンネルの中の照明がちゃんと付いてなかったくらいの昔、天気の悪い日、ちょうど夕方、トンネルが真っ暗になるのと同じくらいの時間、トンネルのちょうど真ん中辺り、落盤事故があって、幼稚園の遠足のバスが横転した。人里からも10km以上離れていて、その頃は特に暗くなってからはめったに他の車が通ることもなくて、真っ暗な中、子供たちはどこにも逃げられなくて、痛くって、泣いたけど、真っ暗で、何にも見えなくて、バスを運転していた先生も倒れて血を流してて、寒くて、叫んだけど、どっちに逃げたらいいかもわからなくて、30人くらいいた子供たち、バスの中でみんな一晩のうちに凍え死んじゃったのだ。 ~

 

 『・・・・・・ふーむ、なるほどねえ。』

 「とまあ、僕が知っている怪談はこんなところかな。」

 『恐いといやあ恐いけど、どっちかっていったら恐いというより可哀想な話ってヤツだよなあ、今の話。』

 「でもこの話、後日談があるんだよ。」

 『へー、後日談か。』

 「ああ。地元の大学生がこの話を聞いて面白がって、実際にそのトンネルへ行ってみたらしいんだ。」

 『なんだよ、それでまさか‘その大学生は二度と帰ってこなかった’っていうありがちあんどしょーもないオチじゃないだろうな。』

 「いや、ちゃんとその大学生は無事に帰ってきたんだ。だけどその大学生、そのトンネルでなにがあったか尋ねても、ガタガタ震えてばっかりで決して何があったか何を見たかを話そうとしない。」

 『それもまたありがちなオチだ。』

 「で、その大学生、トンネルには自転車で入ったらしいよ。」

 『・・・・・そりゃあ恐すぎるわ。』