かおなし=Faceless

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スピーチ

 「まずは新郎新婦のお二人に心からのお祝いを申し上げたいと思います。おめでとうございます。
 結婚するお二人を前にこんなことを言うのもなんですが、‘好き’とか‘愛’というものは本当に不思議なものだと思います。あと‘恋’というのも不思議なものですね。
 よくくだらない冗談で‘恋’という字は‘変’という字に似ていると申しますがあれは偶然ではないのです。‘恋’という字と‘変’という字が似ているのにはちゃんと理由があるのです。
 人間誰しも他の誰かに最初に持つのは‘好き’とか‘嫌い’という感情です。まあ、‘好き’にも‘嫌い’にもいろいろな種類があるわけです。それがやがてある日、‘好き’ではなくなんとも表現しがたい感情をある特定の人物に抱くようになります。‘好き’ではあるのだけれど、‘好き’とは違うなんともおかしな感情、変な感情。
 そう、それが‘恋’です。
 ‘好き’が‘変わって’‘恋’になるのです。‘恋’っていうのは非常に‘変’で厄介な感情でもあります。なんと申しましょうか、‘恋’とは非常に変化しやすい移ろいやすいものでもあります。
 ‘変’という漢字を思い浮かべていただきますと‘久’という字が入っています。永久の‘久’です。この‘久’が抜けて‘心’が入ると‘恋’という字になります。せっかく心が入ったのに、‘久’が抜けてしまったので、‘恋’というものは残念ながら長く続きません。しかし‘恋’という字で‘心’は下になっています。この‘心’が中心に収まった字を皆さんご存知でしょうか?
 そう、その字は‘愛’という字です。‘恋’が折れることなく成長し‘心’が中心に来たときそれは‘愛’になるのです。
 そして今日、‘恋’を‘愛’へと育てた新郎新婦のお二人は晴れて結ばれることになりました。
 本当にお二人に心からのおめでとうを何度でも贈りたいです。
 でも、二人はこれでゴールではありません。
 二人は今日結婚しました。
 二人の間には揺るがない‘愛’があります。
 でもそこで止まらないでください。
 ‘愛’をもっと育ててください。
 お二人が幸せな家庭を築けば‘愛’はやがて‘愛情’へとより大きなものへと育つでしょう。
 やがてその‘愛情’から‘愛’が抜けても‘情’だけは残るでしょう。
 そしてその‘情’もなくなったとき、妻は、妻は、家を出て行ったのでした・・・・・。」