ボまでの遠い道のり
福島君の家へ行ってきた。
行ってきたものの、特にこれといってすることもないのでぼんやりしていた。
「ねえ、最近ぱーっとしないねえ。」
「うーん、そうだねえ。」
などと、非常に盛り上がらない。
意味もなくぼんやりしていると
「なんか最近面白いこととか、夢中になってることとかないの?」
と福島君が尋ねてきたのでちょっとわが身を振り返ってみたが、うんざりするほどなにもなかった。
「ないなあ。面白いこともマイブームみたいなのもないなあ。」
「ふーん。」
「そういう福島君はどう?面白いこととかなかった?」
「・・・・・ないなあ。」
「マイブームとか?」
「・・・・・ないなあ。」
「なんだよ、つまんないなあ。」
「ああ、でもね。」
「なに?」
「マイブームはないんだけど・・・・・」
福島君はそういうと片手を肩の高さまで上げ人差し指で僕の斜め後ろを指しながらこう言った。
「マイブームじゃなくてマイビームなら出せるようになったよ。はっ!」
一瞬福島君の人差し指がオレンジ色の光を放ったかと思うと、僕の斜め後ろの壁にはすでに焦げ目が着いていた。
「な、なな、なに?いまの!?」
「だから、マイビーム。」
「どうやってやったの?どうやって出したの!?」
「それは秘密です。」
「何なんだよさっぱりわからないよ!」
「マイバームとマイビームは出せるんだけど、マイブームまではまだ出すことが出来ないんだ。マイベームとマイボームまでは遠い・・・・・」
「な、なんだよそれ。マイバーム?マイベーム?マイボームっていったいなんなんだよ!?」
「冗談だよ。」
「冗談かよ!でもいったいマイビームっていったい何なんだよ!なんに使うんだよ!?」
「ふふふ、マイビームは便利だぞ。例えばだ、はっ!」
福島君が気合とともにテレビに向けてビームを放つとパッとテレビの電源が入った。
「このように光線の出力と周波数を微調整することでテレビのリモコンになったり、エアコンをコントロールしたり、職業によってはレーザーメスにも使える。そしてさらに・・・・・・」
テレビを眺めながらあっけにとられている僕を尻目に、福島君はゆっくりと天井に人差し指を向けると
「はっ!」
ひときわ大きな声で気合をかけた。そのとき福島君の指先から放たれたビームは太く強力な光を放ちながらうなりをあえて天井に突き刺さった。
「ななな、な?」
僕が絶句していると福島君は僕の方をちらりと見てニヤッと笑った。
福島君のマイビームに貫かれた天井板は数秒だけぐらぐらと揺れていたがやがてどさっと大きな音を立てて落ちてきた。
驚いたことに落ちてきたのは天井板だけではなかった。天井裏に潜んでいた忍者も一緒に落ちてきたのだ。そう、福島君のさっきの強力なビームは最初からこの忍者を狙ったものだったのだ。
「ふ、・・・・不覚。」
忍者が悔しげに口から血を流しながら呻いた。福島君は忍者を冷酷に見下ろしながら言い放った。
「風上にったったのがうぬの不覚よ。」
天井裏に風上も風下もないだろう!という突っ込みを入れることすら忘れて僕はこの予想外の展開に戸惑っていたが、二人はそんな僕をほおって置いてそのまま話を進行していった。
「く、だがここでつかまるわけには行かぬ!」
忍者は懐から小さな玉を取り出すと福島君に投げつけた。
「はっ!」
それを福島君は玉が忍者の手を離れた瞬間にマイビームで打ち落とした。いや、そう思った瞬間玉は爆発した。
「く!煙玉か、古い手を!」
煙が晴れたあと、忍者が残していったのは血のあとだけだった。
どうやらまんまと逃げられたらしい。
「まあいい、どうせ雑魚だ。」
福島君はそういって肩をすくめた。
「でも油断するなナカムラ、どうやらヤツラも今回ばかりは本気のようだ。戦いはこれからだ。絶対に世界をヤツラの好きにはさせない。」
「ああ。」
二人の間を熱い風が吹き抜けていった。
「ところで福島君、ヤツラって誰?」
「それは秘密です。」