なれそめ
「俺ね、彼女できた。」
「あ、そうなの。おめでとう。どうやってつかまえたの?」
「ん、まあ、わりとようある話で。」
「ふーん。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・おい。」
「なに?」
「‘ふーん’じゃないよ。」
「なんだよ。」
「普通は‘ふーん’じゃなくて‘いいから聞かせろよ’とか‘もったいぶるなよ’とか言って根掘り葉掘り聞くもんだろう。」
「聞いて欲しいのか?」
「そういうことじゃなくてお前の態度の話をしてるんだよ。」
「はいはい、じゃあもったいぶらずに全部話せよ。」
「ま、本当にありがちな出会いだったんだけどさ。」
「はいはい。」
「家に帰る途中、暗い夜道を歩いていると‘キャー’という女の悲鳴が聞こえてきた。」
「ほうほう。」
「悲鳴は裏通りの方からだ。俺は何事かと思い急いで悲鳴が聞こえた方へ走った。すると若い女性が怪しい人影に手首をつかまれている。」
「よくある話って言ってたけどあんまりないシチュエーションだな。」
「女性の方は‘いやっ、やめてください’とか言ってるんだけどその怪しいやつは‘へへへ、ガタガタ騒ぐんじゃねえよ。どうせ誰も来やしないぜ’なんて言ってる。」
「ベタな展開だな。」
「こうみえても俺はケンカには少し自信があったからこれは助けなきゃ!と思った。」
「お、男だねえ。」
「‘おい、何をしてる!’俺が言うとヤツは驚いて俺の方を見て‘何だてめえは?’と言った。」
「それで?」
「女性の方は俺をすがるような目で見て‘助けてください!’と言った。これがまたこの人が街灯の弱い明かりしかなかったんだけどキレイというか可愛い人でな、俺としてはめっちゃはりきっちゃった。それで俺は‘その人の手をつかんでいるヤツの手をグッとつかんで‘放せっ’と言ってやった。まあ、これが俺と彼女との初めての出会いってやつだ。」
「で、どうなった?」
「ヤツは‘うるせえ!’って言って俺がつかんだのと逆の方の手で殴ってきた。これがモロに顔面に入っちゃって頭がクラッときたんだけどここでやられるわけにはいかない。俺はいったんやつからはなれると思いっきり蹴りを入れた。これがヤツのわき腹にクリーンヒット。思わずヤツは女性をつかんでいた手を放した。すかざず俺は女性に‘早く逃げて’と声をかけた。きっとパニックを起こしていたんだろうな、女性は一瞬躊躇したもののすぐにうなずいて逃げた。」
「やるじゃん。」
「ところがヤツの方がそれでは収まらない。女性を追いかけようとしやがる。」
「だろうね。」
「そこへ立ちふさがる俺。」
「かっこいいー!」
「‘邪魔すんなっ’と俺にヤツはなぐりかかってきた。迎え撃つ俺。ところが結構ヤツも強い。その後は、自分で言うのもなんだけど壮絶ななぐり合いになった。俺もヤツも一歩も引かない。ひたすらなぐり蹴り、おかげでそのときの腫れが一週間たった後まで残ったよ。」
「すごいな、それ。」
「おたがい意地になってかなり長時間なぐり合っていた。さすがに俺も息が切れてヤツを殴る手が止まる。すると同じようにヤツの方もいったん手を止めて肩で大きく息をしながらこっちを見てやがる。で、俺の方もヤツを見返してやると、ヤツがニヤッと笑ってこう言った。‘お前、なかなか強ええじゃねえか’って。そこで俺もニヤッと笑って言い返してやった。‘お前もやるな’って。それでそのまま俺とヤツはしばらくにらみあっていたんだが、突然プッとヤツが噴出した。なぜだか俺もつられて噴出した。その後はなぜだかわからないが笑いがこみ上げてきてヤツと二人で肩を叩き合って大声で笑い転げた。」
「なんだ、その古い青春ドラマのような展開は?」
「なぐるだけなぐり合ってくたくたになってみると、お互いこれ以上ケンカを続けるのが馬鹿馬鹿しくなっちゃってな。それで笑いがこみ上げてきたというわけだ。」
「なんでだよ?」
「で、お互いのことをいろいろ話してみると結構いいヤツでな。」
「どこをどうとったらそいつがいいやつなんだよ?」
「俺とヤツの間には生身でぶつかったもの同士だけが味わえる友情が芽生えた。」
「友情芽生えてどうすんだよ?彼女の話はどうなったんだよ?」
「やがて友情は愛に変わった。」
「彼女ってそいつかよ。」