かおなし=Faceless

日常だったり雑談だったり妄想だったり

羊を数える夜 2006-01-24

 なぜだか眠れなかった。
 眠気は十分にあるのだけれど眠れない。どうしてだろう?
 僕は布団の中でなんども寝返りをうって寝ようとしたけれど駄目だった。さてさて、こういうときはいったいどうしたらいいのだろう? 眠れないといっても眠気はたっぷりあるのだから、起きて何かをしたり本を読んだりする気にもならない。こういうときは古典的だけど、やはり羊の数でも数えてみるのがいいのではないだろうか?

 羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹・・・・・・。

 少し数えてみて気がついた。意外と数えにくい。羊が僕にとって馴染みがない動物であるからかもしれない
 ちょっと考えてみよう。きっとただ言葉だけで「羊が一匹」なんて数えてるから数えにくいのだ。でもだからといって現物の羊を用意するわけにもいかない。ここは一つ、頭の中で羊を思い浮かべ、その数を数えることにすればいいだろう。さっそく僕は羊のイメージを頭の中に描く。

 よし、羊が一匹。

 さらにもう一匹の羊を描く。

 羊が二匹。

 もう一匹。

 羊が三匹・・・・・。

 駄目だ。なんか駄目だ。数える対象の羊という存在がどうも希薄であやふやな感じがする。羊を数えるという行為が不自然な感じがする。そもそもただ漠然と羊を数えるという行為がいけない。なにもない頭の中の空間に無理やり羊を思い浮かべても駄目だ。やはり羊というのは牧場にいるものだ。
 僕は頭の中に広々とした草原を思い浮かべてみた。旅行会社かなにかのパンフレットで見たことがある北海道の風景写真の記憶を元にイメージする。次にその中に牧場の姿を追加してみる。柵で敷地を区切り、畜舎小屋を立て、管理事務所を控えめに追加した。
 うん、なかなかいい感じの牧場だ。牧羊犬も必要だろうから二匹ほど飼っておこう。犬種はボーダーコリーでいいだろう。
 よし、これで羊を数える準備は整った。僕は一匹づつ牧場の柵の中に羊を数えながら追加していく。

 羊が一匹。

 うっかり柵の外に羊を追加すると逃げたりして牧羊犬が大騒ぎするからな。

 羊が二匹。

 羊が三匹・・・・・。

 羊が十二匹・・・・・。

 羊が二十六匹・・・・・。

 羊が百十三匹・・・・・。

 羊が六百八十匹・・・・・。

 羊が千四百十一匹・・・・・。

 ・・・・・困った。
 牧場がいっぱいになってしまった。けっこう大き目の牧場を用意したつもりだったのに。現状ではこれ以上の羊を我が牧場で飼育することはできない。
 しかたないな。ここは牧場を広げるとしよう。おっと忘れないように畜舎も増築しなければ。
 牧場の東側の土地を買い占めて牧場を拡張する。
 よし、これで牧場は三倍近い規模になった。
 さっそく羊を数えるのを再開する。

 羊が千四百十二匹。

 羊が千四百十三匹。

 羊が千四百十四匹・・・・・。

 羊が千四百六十一匹・・・・・。

 羊が千九百二十二匹・・・・・。

 羊が二千四百三匹・・・・・。

 羊が三千八百二十九匹・・・・・。

 羊が四千百七十六匹・・・・・。

 ・・・・・まいった。
 またしても牧場がいっぱいになってきた。しかも困ったことに今回は前回と同じように安易に牧場を拡張するというわけにもいかない。
 予算がない。
 前回の拡張の時に行った強引な土地の買占めのために、我が牧場の資金は底をつきかけているのだ。しかし、何らかの手を打たなければこれ以上の羊を収容する能力も我が牧場には残されていない。
 ここはなにか別の手立てが必要だ。
 ・・・・・羊を売ることにしよう。
 羊を二千匹ほど売ることにした。一度に大量に売ったため多少業者に買い叩かれはしたものの底をついていた牧場の資金もある程度回復した。残った羊は二千五十六匹だ。
 さて、羊を数えるのを再開しよう。

 羊が二千五十七匹。

 羊が二千五十八匹。

 羊が二千五十九匹・・・・・。

 羊が二千二百七十八匹・・・・・。

 羊が二千六百五十五匹・・・・・。

 羊が三千百三十一匹・・・・・・。

 羊が三千五百九十二匹・・・・・。

 ・・・・・ちょっとタンマ。
 トイレに行きたくなってしまった。
 面倒だけれど、ちょっと我慢できそうにない。やれやれ、ちょっと行ってくるとするか。
 トイレは確か、牧場管理小屋の裏に作っておいたな。
 お、あったあった。
 ノックしてみる。
 よし、空きだ。
 とっとと済ましてしまおう。
 ふぅ~。

 

 ・・・・・んなわけない!