かおなし=Faceless

日常だったり雑談だったり妄想だったり

ワン切り

 まあたまには変わった話もいいんじゃないですか? ここ最近、僕が体験した話なんですけど聞いてください。
 僕の話がなんの話かというというとですね、知らない人はいないと思いますけどワン切りの話です。ワン切りの説明は必要ないですよね。最近減ったとはまだ時々かかってくるってことはけっこう引っかかる人がいるんですね。
 ま、着信履歴身を見て覚えのない番号だったらこっちからかけなきゃいいだけなんですけどかけちゃう人がいるんですね。なんでだろう?
 一度は減ったそのワン切りなんですが最近またよくかかってくるようになりまして、気がつくと先月あたりは一月に1回くらいだったのが今月になったら毎日のようにかかってくるんです。なんかおかしな名簿にでも僕の携帯の番号が載せられてるんじゃないかと不安になりました。
 中でも一番腹立たしいのは夜中にかかってくるやつです。寝ていて夜中に「あ、いまなんか鳴ったなあ」って思って朝、携帯を見てみるとワン切りがかかってきてるわけです。それが毎晩かかってきたら腹も立つってものです。それほど眠りが浅いって方じゃないんですがどうも夜中に携帯が鳴って「あっ」て思っちゃうともう熟睡感がなくなっちゃって次の日なんかだるいんですよね。
 で、そんな感じで5日くらい連続で毎晩というか毎夜中似たような時間にワン切りがかかってきたんです。で、さすがに僕も腹が立って、かけてきたやつを怒鳴りつけてやりたい気分で一杯だったんです。でもこっちからかけるわけにもいかないじゃないですか。それでチクショーって思いながら携帯の着信履歴を見てたんです。そしたらおかしなことに気がつきました。
 その毎夜中かけて来るワン切りは必ず2時にかけてきてるんです。1,2分の誤差はありますがぴったり2時にわざわざかけてきてるみたいなんです。
 しかももっとおかしいことがあったんです。僕もなんでもっと早く気がつかなかったのか不思議ですけど、みんな「番号非通知」なんです。
 おかしいですよね、番号非通知なんて。だってそれだったらワン切りの意味がないじゃないですか。ワン切りで相手に電話をかけさせるのが目的なのに番号非通知じゃなんの意味もありません。
 馬鹿なヤツもいるもんだなぁって思いました。毎晩決まった時間にせっせと夜中に番号非通知でなんの意味もない電話をかけてきてるんです。うっとおしくて迷惑なヤツですけどその間抜けさがなんか面白いじゃないですか。それでふと思ったんです、‘あ、アレができる!’って。
 アレってのはですね、ワン切りに出ちゃうんです。誰だって一度くらい考えたことあるでしょうワン切りに出られないもんかって。僕も一度でいいからワン切りに出てみたいと思ってたんです。
 考えてみればこのワン切りはカモですよカモ。誤差1,2分で毎夜2時にかかってくるのはわかってるんです。長くても5分たらずの間、ボタンに指をかけて待ち構えていればいいんです。
 それで僕は夜中2時になる3分前から今か今かと待ち構えたわけです。なんたってほんの1秒くらいの勝負です。それにただ取っただけではダメです。こっちが電話を取ってやったって相手に知らせてやらなくちゃいけません。こっちがとっても相手が気がつかずにそのまま切っちゃう可能性の方が高いですからね。だから
 ピッ
 「こらー!」
 かかってきた瞬間電話に出ると同時にありったけの声で電話に向かって怒鳴ってやりました。おかげで翌朝となりのおじさんに怒鳴られましたけど。
 まあそんなことはワリとどうでもよくて、怒鳴った瞬間僕は‘勝った’って思いましたね。だってワン切りに出たっていったらちょっとした自慢じゃないですか。
 まあ相手も驚いて電話を切っただろうと思って念のため受話器に耳を当ててみると、なんかね、泣き声が聞こえるんです。もちろん人間のですよ。
 なんか聞こえてくるのは女の子の泣き声なんです。驚きましたよ、まるで予想外なんで。これはいったいどういうことかと思いまして、まさか僕に怒鳴られたから泣いてるんでもないだろって考えて、だってそんなんだったらワン切りなんかしなきゃいいんです。
 それでですね、ちょっと驚きながらもこう、聞き耳を立てて受話器の向こうの様子をうかがってみるとなんかおかしいんです。その泣いている女の子がぶつぶつ言ってるんです。

 「ああ、出ちゃった。どうしよう出ちゃった。」

 いったい何が出たって言うんでしょう。まあ僕が電話に出ただけの話なんですけど、最初はそれに気がつかずに色々想像しちゃいました。
 あんまり様子がおかしいもんだから「もしもし!」ってこっちから声をかけてやりました。まあできればこのワン切りの犯人に文句の一つも言ってやりたかったし。
 で、その、まあ女の子とちょっと話をしたわけなんですけどね。なんかすごいことを言うんですよ。ビックリです。
 女の子が言うにはですね、この電話は不幸の電話だって言うんです。わかります? 不幸の電話。ようするに不幸の手紙と一緒です。
 この不幸の電話に出た者は、電話を取った次の日から3人の人間に電話をしなくてはならない。3人には毎晩決まった順に決まった時間に電話を7日間連続して掛けなければならない。その時間は午前1時、2時、3時。
 7日間、誰も出なければ助かるけれど、誰かが電話に出た場合不幸が訪れる。でももし電話をしなかったり途中でかけるのをやめてしまった場合、もっと大きな不幸が7日後におとずれる。電話を受けたものにはこの不幸の電話の成り立ちを説明しなければならないのは当然で、もし説明をしなかった場合は電話をかけなかったと同じとされる。
 どう思います? ビックリしちゃうでしょう?
 ほんと、バカバカしくて笑い話にもならないです。信じられます? こんな話。いや、こんな話を信じてる人がいるってコトを信じられます?
 だからね、この後どうするかはあなたの考え次第です。
 僕がこんなこと言える義理はないんですが、ここであなたが信じないで連鎖を止めてくれれば少なくとも3人は助かるんですよね。
 それでは、次の電話をそろそろ掛けなくちゃならないんで僕はこの辺で。
 ピッ。