苦いコーヒー 2004-06-18
なぜだかわからないが僕はこの日記を病院で書いている。
美味いだけでなく、比較的珍しい種類のコーヒーが飲めるという喫茶店を知り合いから紹介された。さっそくその店へ行ってみる。
電車に乗る。数十分ほど揺られ、今まで降りたことのない駅で電車を降りた。
駅員のいない駅、その駅から正面にまっすぐ海の方ヘ向かって伸びる道を歩く。知り合いの話ではその喫茶店は駅からまっすぐ、のんびり歩いて20分くらいだという。
梅雨の合間の晴れ、ちょうどいい風がふく中をのんびりと歩く。
知り合いの言うとおり、20分弱で僕は喫茶店の前にたどり着いた。
店に入ると中は少し薄暗い、オープンキッチンスタイルのカウンター席しかない造りだった。そのカウンターの向こう側から大きな声が僕を出迎えた。
「ヘイッ、イラッシャイ!」
ちょっとだけ驚いた。喫茶店のマスターは外国人だった。やたらガ体のいい黒人だ。喫茶店のマスターよりもNBAの選手でもやった方が似合いそうな体格だ。
店内のあちこちにアメリカ西海岸らしい風景やハリウッド系映画のポスターが貼られていたので元はアメリカ人かもしれない。
マスターは僕に向かってニカッと笑って見せると
「ドゾ、オスワリクダサイ。」
と言ってカウンター席を手の平で指し示した。発音にクセがあるものの日本語に不自由はないようだ。
僕は言われるままに席に着いて壁に貼られたメニューを眺める。メニューにはコーヒーばかり、豆の種類が20種類近く並んでいた。
なんにしようかと考える。やっぱりせっかくだから、珍しい豆を選びたい。
メニューを上から下まで目線で4往復してから注文を決めた。キューバを注文する。今まで飲んだことがない豆だ。
「ドゾ。」
と、10分程まってから出されたコーヒーはなかなかの一品のようだ。豆を挽き、サイフォンを操るマスターの手際は素人目から見ても鮮やかだった。
少し匂いをかいでから、よく味を確かめるためにとりあえすブラックのまま飲んでみることにする。・・・・・けっこう味が濃い、でも悪くない。
僕がゆっくりとコーヒーをすするのを見ていたマスターがまたニカッと笑いながら尋ねてきた。
「ドデスカ、オアジハ?」
僕はちょっと渋めの顔で正直に第一印象を答えた。
「苦ー(にがー)。」
気がつくと腫れ上がった顔で病院のベッドの上にいた。
そんなわけで、なぜだかわからないが僕はこの日記を病院で書いている。