かおなし=Faceless

日常だったり雑談だったり妄想だったり

異国にて

 僕は今、異国の地で一人この日記を書いている。

 無性に美味いコーヒーが飲みたくなった。
 そのとき僕の脳内を駆け抜けた名前は‘ハワイアンコナ’。文字通りハワイ原産のコーヒー豆だ。しかもただのハワイアンコナではない。火山灰の関係で、ハワイ諸島の中でもそこだけ地質が違うというコーヒー園で収穫される豆だ。

 あのハワイアンコナ独特の薫りを考えただけでもはや僕はいても立ってもいられなくなりハワイへ飛んだ。目指すは秘密の農園の幻のコーヒー豆。実は僕も噂に聞いたことがあるだけでそのコーヒーを口にしたことは今だにない。

 ハワイに着いてすぐ、意外にもその豆を売っている店は簡単に見つかった。
 その店は町外れにある小さな食料品店。僕はその店に駆け込むと「まめ!まめを下さい!」と慌てて言った。店番をしていた若いおねえさんはそんな僕を見て困ったように首を傾げた。
 ああそうか、日本語が通じないんだ。
 僕は慌てて日本語でまくし立てていた自分がちょっと恥ずかしくなり、少し丁寧な口調で「ハロー」と言ってみた。するとおねえさんは少し安心したような笑顔で、

 「ハロー!ウェルカム」

 と言ってくれた。あらためて見るとこのおねえさん、背の高いすらっとした美人だったので僕はちょっとドキドキした。
 まあそれは置いといて、何はともあれ一番の目的であるコーヒー豆を買おう。日本語が通じなくても片言の英語で何とかなるだろう。買い物をするときに使う英語と言えばアレだ。
 僕はちょっと気取った仕草でポケットから財布を取り出すと丁寧な口調でおねえさんに尋ねた。

 「ハウマッチ?」

 

 

 

 

 その後、鬼のような形相のおねえさんに蹴り倒されたあと警察に捕まった。
 そんなわけで僕は今、異国の地の独房で一人この日記を書いている。